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10-2|一閑張細工とは|飛来一閑|飛来家|一閑張細工師|千家十職|

千家十職



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■ 飛来家|飛来一閑|一閑張細工師 ■

一閑張細工とは






一閑張細工師とは

その千家十職の一つである飛来家は、三千家御用達の「一閑張細工師」として「棗」「香合」「盆」などをはじめ代々家元の「御好物」などの制作を業とする職家です。​


飛来家の一閑張は、軽量ながらも堅牢な作りが特徴で、独特の質感と風合いが茶の湯の道具として高く評価されています。また、茶室の雰囲気に溶け込む上品な意匠や、漆仕上げによる優雅な光沢が魅力とされています。



茶の湯の発展とともに技術を磨き、千家好みの一閑張茶道具を代々にわたり制作してきました。

その作品は、時代の変遷を経ながらも、伝統の技法を守り続け、茶の湯の世界に欠かせない存在となっています。











❚ 一閑張細工とは

一閑張とは、日本の伝統工芸である紙漆細工の一種で、茶道具の世界にも深く関わる技法です。

竹や木などの骨組みに和紙を幾重にも貼り重ね、漆で仕上げることで、軽くて丈夫な器や籠を生み出します。

その起源にはいくつかの説がありますが、最も有力とされるのが千家十職の一人。飛来家初代/飛来一閑(1599-1675)が伝えた技法に由来します。



飛来家初代/飛来一閑は、中国・明から渡来した漆工で、京都に住して木地や紙器の制作を行いました。飛来家初代/飛来一閑の手掛けた紙漆細工は特に優れており、「一閑塗」と呼ばれたといわれます。千家三代/咄々斎元伯宗旦(1578-1658)に愛用されたことから茶の湯の世界に広まり、やがて「一閑張」として知られるようになりました。



一方で、農村部で竹籠や笊に和紙を貼り、柿渋を塗って補強した「閑張り」があり、これは「農閑期の閑な時に作られた張り物」という意味で、やがて京都の茶文化への憧れから「一閑張り」とも呼ばれるようになったとされます。











紙漆細工と紙胎・張抜の技法

一閑張は「紙胎漆器」という技法に基づいています。

漆器というと木地に漆を塗った「木胎漆器」が一般的ですが、素地に何を使うかによって以下のように名称が変わります。



紙胎漆器

★一閑張細工★ 和紙を貼り重ねて漆を塗る。

木胎漆器

★一般漆器★ 木地に漆を塗る。

陶胎漆器

陶器の上に漆を塗る。

籃胎漆器

竹籠に漆を塗る。


飛来一閑の技法は紙胎漆器で、和紙を重ねた素地に漆を塗るものでした。その後、「張抜き」と呼ばれる木型を抜く技法が加わり、「一閑塗」と「張抜き」という二つの言葉が融合して「一閑張」と呼ばれるようになったと伝えられています。



漆器の制作は本来、素地師・塗師・加飾師と分業されますが、飛来一閑は素地づくりから仕上げまで一貫して手掛けたともいわれ、その独自性が千家三代/咄々斎元伯宗旦の目に留まったと考えられています。



今日では「一閑張り」といえば柿渋を使った民芸的な籠や器を指しますが、飛来一閑の一閑張細工は純然たる漆工芸であり、柿渋を用いない点が大きく異なります。

今日でも、飛来家の当主がこの伝統的な紙胎漆器の技法を継承し、千家十職の流れを受け継ぐ品々を制作しています。












❚ 飛来一閑張細工の特徴と京漆器との関わり

飛来一閑の作品は、木地に和紙を張り、その上に一度だけ漆を塗るという極めて簡潔な手法で知られています。千家三代/咄々斎元伯宗旦が愛したといわれる「ざんぐり(大まかで素朴な肌合い)」の風趣があり、これが「侘び・寂び」の美に通じるものとして評価されました。



当時の京都では、京漆器が主流でした。京漆器は生地が薄く軽やかで、黒漆を重ね、蒔絵などの華やかな装飾を施すのが特徴です。その中で、飛来一閑の紙胎漆器は素朴でありながら品格のある趣を放ち、京漆器の世界に新風をもたらしました。



後に飛来家は千家十職の一つとして定められ、中村宗哲が華やかな京漆器、飛来一閑が紙胎漆器による侘びの表現を担いました。











❚ 閑張り・一貫張り

一方で、庶民の暮らしの中でも「閑張り」と呼ばれる技法がありました。

農家で竹籠や笊に和紙を貼り、上から柿渋を塗ったもので、農閑期の暇な時に作られたことからこの名がつきました。もともとは養蚕や製茶のための実用品でしたが、やがて日用品や家具にも応用されるようになりました。

使用と修繕を重ねるうちに、柿渋の効果で強度が増し、「一貫目 (約3.75kg)の重さにも耐える」として「一貫張り」と呼ばれるようになったともいわれます。

これが「一閑張り」と混同されて広まったため、今日では両者の区別が曖昧になっています。



また文学作品にも登場し、夏目漱石(1867-1916)の「坊っちゃん」や江戸川乱歩(1894-1965)の作品の中に「一閑張りの机」が描かれるなど、四国地方を中心に「一貫張り」として広まった民芸品としても知られています。











❚ 技法

一閑張の製作は、素地の組み立てから仕上げまで、すべて手作業で行われます。

一般的な工程は次の通りです。



1.骨組みを作る

竹や木を組んで形を整える(紙紐や型を用いることもある)。

2.和紙を貼る

糊を使って和紙を何層にも貼り重ね、乾かす。

3.塗装を施す

柿渋や漆を塗って防水性・強度を高める。

4.装飾を加える

書や絵を貼り、さらに渋を重ねて独特の風合いを出す。


この工程によって、紙とは思えないほどの堅牢さと軽さが生まれます。

柿渋は防水や防虫の効果を持ち、使うほどに色艶が増すため、実用性と美しさを兼ね備えています。

仕上げには、渋塗りの上から漆をかけたり、彩色や模様貼りを施すなど、用途や地域によって多様な表現が見られます。











❚ 地域ごとの特色と発展

一閑張の技法は京都を起点として全国に広まり、各地で独自の発展を遂げました。


京一閑張 (京都)

飛来一閑の流れを継ぎ、茶道具や菓子器などに洗練された意匠を見せる。

会津張り (福島県)

柿渋で仕上げる民芸的な温かみが特徴で、実用性が高い。

讃岐一閑張(香川県)

竹籠に和紙を重ねた素朴な風合いで、生活道具として広く親しまれてきた。

このように、一閑張は「実用と美の融合」を大切にし、暮らしの中で使われながら育てられる工芸として各地で息づいています。











❚ 一閑張の美と現代の継承

一閑張は、紙と柿渋という身近な素材を生かした「用の美」を体現する工芸です。

使うほどに深みを増す風合いと、職人の手仕事による温もりが魅力であり、茶道においても「侘び・寂び」の精神を象徴する器として重用されています。



近年では、古布や英字新聞、手漉き紙を用いたモダンな作品も登場し、伝統技法と現代感覚が融合した新たな表現が生まれています。日用品として、また芸術作品としても、一閑張は今なお多くの人々に愛されています。



現代では、飛来家による京漆器系の一閑張細工と、民芸としての柿渋一閑張りの二つの流れが存在しています。前者は茶道具としての高い芸術性を持ち、後者は民の生活に根ざした「用の美」を象徴します。



紙と漆という限られた素材から、侘び寂びの美を生み出す飛来一閑張細工。その精神は、今もなお京都の工房に息づき、千家の茶の湯とともに静かに受け継がれています。











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