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7-5|六十首 ~ 七十九首|07.利休百首|千宗易利休|抛筌斎

更新日:9月11日

全10回 抛筌斎 千宗易 利休



千利休の人物イラストと掛物「利休百首 六十首〜七十九首」を組み合わせた構成で、自然・稽古・調和の詩句を伝える冒頭画像。


利休百首

― 六十首 ~ 七十九首 ―






❚ 感性をととのえる美の所作

本項では、千利休が遺した「利休百首」の中から、第60首から第79首までを取り上げ、それぞれの歌が持つ意味と背景を丁寧に読み解いてまいります。



ここに詠まれるのは、道具の選定、花や掛物の取り合わせ、稽古の繰り返しに宿る心構えなど、茶会全体を美しく整えるための審美眼と感性です。



利休の言葉を手がかりに、自然との調和と時宜にかなった設えを通じて、茶の湯における美意識を深めていきましょう。










❚ 六十首 ~ 六十九首

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六十、

ともしびに陰と陽との二つあり あかつき陰によひは陽なり

茶の湯では、陰と陽の関係を大切にします。道具は水に縁のあるものは陰、茶入のようなものは陽と定められている。灯火にも陰と陽の区別があり、時刻も陰と陽とに分けて、陰と陽の二種の灯りをあわせます。


六十一、

いにしへは夜会等には床の内 掛物花はなしとこそきけ

利休居士以前の夜の茶会には掛物・花は用いなかった。


六十二、

炉のうちは炭斗瓢柄の火箸 陶器香合ねり香としれ

炉の時、炭斗は瓢、柄付の火箸、陶器の香合、練香を用いなさい。


六十三、 

いにしへは名物等の香合へ 直ちにたきもの入れぬとぞきく

名物などの良い香合の場合、汚したり、傷つけたりしないように下に青葉や紙等を敷いて香をのせなさい。


六十四、

風炉の時炭は菜籠にかね火箸 塗り香合に白檀をたけ

風炉の時、炭は菜籠(炭斗)に入れ、金属製の火箸、塗物の香合、白檀を用いなさい。


六十五、 

蓋置きに三つ足あらば一つ足 前に使ふと心得ておけ

三本足の蓋置の場合、一本足または一つだけ他とは違うものを前に。


六十六、

二畳台三畳台の水指は 先づ九ツ目に置くが法也

台目畳の時、まず水指は客付の畳の縁から数えて九つ目に置くこと。


六十七、

茶巾をば長み布幅一尺に 横は五寸のかね尺と知れ

茶巾は長さ1尺(約30cm)、横幅は五寸(約15cm)。


六十八、

帛紗をば竪は九寸よこ巾は 八寸八分曲尺にせよ

帛紗は縦(わさ)は九寸(約27cm)、横幅は八寸八分(約26cm)


六十九、

うす板は床かまちより十七目または十八十九目に置け

薄板は床框から奥へ、畳目で十七目から十八目、または十九目に置くこと






❚ 七十首 ~ 七十九首

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七十、

うす板は床の大小また花や花生によりかはるしなしな

花入を置く位置は薄板の位置によって定まり、その位置は床の大きさや花、花入の種類によって異なる。いかに花と花入の映りを美しくするかが重要である


七十一、 

花入の折釘打つは地敷居より 三尺三寸五分余もあり

床の大/小によって多少の違いはあるが地床正面の壁中央に打つのでこれを中釘(たいていは無双釘)ともいう。台目床のようなに小さい床の場、合敷居(床かまち)から、三尺三寸五分(約1m)の高さに打ちなさい。


七十二、

花入に大小あらば見合せよ かねをはずして打つがかねなり

花入の大/小、床の高/低・大/小により、柱や壁に打つ釘の位置は変わるものであり、変えなくてならないものでもある


七十三、

竹釘は皮目を上に打つぞかし 皮目を下になすこともあり

竹釘は皮目を上に打つのが原則であるが、皮目を下にする方が便利なこともあります。


七十四、

三つ釘は中の釘より両脇と 二つわりなる真ん中に打て

両横の二本の釘を打つ位置は、中央の釘から床の右端までの中央、同様に床の左端までの中央に打つ。大横物を掛けるときは、掛け緒は中央を掛け、次ぎに左、そして右と掛け、最後に中央をはずす。


七十五、

三幅の軸をかけるは中をかけ軸先をかけ次は軸もと

三幅対の軸をかける時は、まずは中央を掛け、軸先(下座)、軸元(上座)をを掛ける。


七十六、

掛物を掛けて置くには壁付を 三四分すかしおく事ときく

掛物を掛ける時は掛物や壁を損じてしまわないように壁付より三、四分(約1cm)すかしておくこと。


七十七、

花見よりかへりの人に茶の湯せば 花鳥の絵をも花も置くまじ

花見から帰ってきたという客人を自身の茶会に招く時には花や鳥の絵や花を入れても客人は面白くない。


七十八、

時ならず客の来らば点前をば 心は草にわざをつつしめ

不時の来客の場合はご馳走を準備する時間もありませんがせめて点前だけは十分慎んで丁寧に接っしなさい


七十九、

釣船はくさりの長さ床により出船入船浮船と知れ

舟形の花入を吊るにはその鎖の長さ、床の都合で、出船としたり入船としたり、または浮き舟としたりしなさい。舳先を床中心に向けることを「入船」といい、反対に、艫を床の中心に向けると「出船」になる。「浮き船」は、天井から鎖でつらず、床の上に鎖をたばね、小さな錨を置き、花入をそれにもたれかけさせましょう。












❚ 茶人の眼と心

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第60首から第79首の和歌には、亭主の審美眼や場をととのえる力がいかに重要であるかが説かれています。



道具の選び方、設えの細部にまで込める配慮、花の扱いや掛物の高さに至るまで――すべてに、亭主の感性と心の在り方が問われています。



日々の稽古で積み上げた所作に美しさが宿り、心を澄ませて選び抜いた設えが客人の心を打つ。



そのような茶人の在り方にこそ、利休が示した理想の茶があるのかもしれません。












❚ 次回は・・・

次回の「7-6|八十首~百二首|07.利休百首」では、「利休百首」の最終章として、茶の湯における心構えや人としての生き方にまでおよぶ教えをたどっていきます。



茶の湯を通して利休が後世に伝えたかった「生きる姿勢」とは何か――締めくくりにふさわしい珠玉の言葉を味わっていきましょう。











登場人物


  • 千利休|せん・りきゅう

……… 天下三宗匠|千家開祖|抛筌斎|千宗易|1522年―1591年











用語解説


  • 陰陽|いんよう

……… 茶の湯における空間や道具の配置に使われる東洋思想。風炉は陽、炉は陰とし、それに応じて道具や灯火も選ばれる。


  • 夜咄|よばなし

……… 夜に行われる茶事。行灯や短檠などを用いて照明を抑えた演出を重んじる。


  • 炭斗|すみとり

……… 炭点前の際に用いる炭を入れた容器。季節や風炉・炉で使い分ける。


  • 香合|こうごう

……… 練香や香木を入れる蓋付きの容器。素材や形により格が異なる。


  • 帛紗|ふくさ

……… 茶器を扱う際に用いる布。長さや幅に規格があり、正式な点前では寸法通りのものが用いられる。


  • 薄板|うすいた

……… 花入れや香炉などを置くための敷板。位置や角度に細かな決まりがある。


  • 折釘|おりくぎ

……… 花入や掛物を掛ける際に使う釘。打つ位置や角度も道具によって異なる。


  • 掛物|かけもの

……… 床の間に掛ける書画。茶事の趣旨や季節を表現する中心的な設えの一つ。


  • 三幅対|さんぷくつい

……… 三枚組になった掛物。中央・左右に並べて掛ける形式で、格式の高い場面に用いられる。


  • 花入|はないれ

……… 花を活けるための道具。置き型、掛け型、吊り型などがあり、花や季節、床の広さなどに応じて使い分けられる。


  • 釣船|つりぶね

……… 舟形の掛花入。出船・入船・浮船など、飾り方によって意味が異なり、趣向に深みを加える。











商品カテゴリー
茶道具|中古道具市
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