7-3|二十首 ~ 三十九首|第7回 利休百首|千宗易利休|抛筌斎
- 2024年8月16日
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全10回 抛筌斎 千宗易 利休

■ 第7回 利休百首 ■
二十首 ~ 三十九首
❚ 道具に学ぶ、美の作法
本項では、千利休が遺した教訓歌集「利休百首」の中から、第20首から第39首までを取り上げ、それぞれの歌が持つ意味と背景を丁寧に読み解いてまいります。
これらの和歌には、炭点前や灰形、道具の扱い方といった実務的な技術のみならず、それらを支える美意識や心得までもが端的な表現で詠み込まれています。
茶の湯において、道具は単なる道具ではなく、精神を映す存在です。
利休の言葉に耳を傾けながら、道具と向き合う所作の意味と、その奥にある心のかたちを、あらためて見つめてまいりましょう。
❚ 二十首 ~ 二十九首

二十、
口ひろき茶入れの茶をば汲むといふ 狭き口をばすくふとぞいふ
大海、鮟鱇などの口の広い茶入からは汲む、その他の茶入の茶はすくうという気持ちで。
二十一、
筒茶碗深き底よりふき上り 重ねて内へ手をやらぬもの
指や手先が茶碗の内部に触れて汚れてしまわないように、筒茶碗を拭くときは先ず底を拭き、その後に縁を拭きなさい。
二十二、
乾きたる茶巾使はば湯はすこし こぼし残してあしらふぞよき
茶巾の湿りが少ないときには茶筅通しの湯を捨てるときに、底に少し残しておくというように、臨機応変で点前をしましょうという心得。
二十三、
炭置くはたとへ習ひにそむくとも 湯のよくたぎる炭は炭なり
炭手前では、少々形が悪くても、よく湯がたぎるように炭をつぐことが大切です。
二十四、
客になり炭つぐならばそのたびに 薫物などはくべぬことなり
客は亭主に所望され炭をつぐ際は絶対に香をくべないように。香をくべるのは亭主の役割です。
二十五、
炭つがば五徳はさむな十文字 縁をきらすな釣合をみよ
炭をつぐときは五徳を挟むと風通りが悪くなり見た目も見苦しい。炭と炭の縁を切れば(隙間が空いたら)火のめぐりが悪くなるのでしないように。
二十六、
焚え残る白灰あらば捨ておきて また余の炭を置くものぞかし
初炭に用いた枝炭が残っているのであれば、景色としてそのままにしておきましょう。
二十七、
炭おくも習ひばかりにかかはりて 湯のたぎらざる炭は消え炭
炭は下火の多少などによって置き方や数を変えなければならないので、教えられた通りに置いても火がおこらない場合もある。そのため炭は、自分の判断で火がおこるように置いても良いのです。
二十八、
崩れたるその白灰をとりあげて 又たきそへることはなきなり
枝炭は置くときにくずれてしまったり、また燃え残っても置き直さないでそれを景色とし、そこに新しい枝炭をつぎなさい。
二十九、
風炉の炭見ることはなし見ぬとても 見ぬこそ猶も見る心なれ
風炉の場合、美しくされた灰形が崩れるようなことをしないために初炭では拝見はしないこと。しかし、亭主の火箸から炭のつがれ方を想像し慎みましょう。そして実際の拝見は後炭の時にするように。
❚ 三十首 ~ 三十九首

三十、
客になり底取るならばいつにても 囲炉裏の角を崩し尽すな
炉で廻り炭(七事式)をする場合、札の取り方で、客が亭主の役目をしなければならないことになる。その際、火のめぐりが悪くなるので囲炉裏の四隅の灰を崩さないように。
三十一、
客になり風炉の其うち見る時に 灰崩れなん気づかひをせよ
風炉の灰はとても扱いが難しく、灰形をつくるのは大変手間のかかるものです。客は亭主のそんな苦労を察して、風炉を拝見するときは静かに控えめに心配りをしましょう。
三十二、
墨蹟をかける時にはたくぼくを 末座の方へ大方はひけ
高僧が禅語を書いた掛物である「墨蹟」を床にかける際、啄木(掛物の掛緒と巻き緒)を必ず下座の方に引いておきましょう。
三十三、
絵の物を掛る時にはたくぼくを 印ある方へ引きおくもよし
絵の掛物を茶室にかける際は、啄木(掛物の掛緒と巻き緒)を筆者の印のある方へ引いておいてもよい。
三十四、
冬の釜囲炉裏ふちより六七分 高くすえるぞ習ひなりける
炉縁の表面から釜の口が六、七分(約2㎝)の高さで釜を据えると、柄杓を釜にあずけたときに柄と畳の間に空間ができるため、柄杓が楽に取れ扱いやすくなるのです。
三十五、
絵掛けものひだり右向きむかふむき 使ふも床の勝手にぞよる
茶室の床に人物画をかけるときは、向かって左向きの画はその人物の背が勝手付になるように掛けなさい。床によって掛けるものを選びましょう。
三十六、
姥口は囲炉裏縁より六七分 低くすえるぞ習ひなりける
姥口の釜の場合は胴全体より低いところに口があるため、胴の上部に柄杓をかけます。そのため、炉縁より六、七分(約2㎝)低く釜を据えなさい。
三十七、
品々の釜によりての名は多し 釜の総名鑵子とぞいふ
釜は形やその他の理由から様々な名称があり、各流宗匠の好み釜も含めると多数存在します。しかしそれらを総称し鑵子と言うのです。
三十八、
置き合せ心をつけて見るぞかし 袋は縫目畳目に置け
茶の湯の点前中、道具の置き合わせに注意せよ。しかしこの置き合わせは非常に難しいので、形にとらわれず袋の縫い目を畳の目に合わせて置きなさい。
三十九、
運び点て水指置くは横畳 二つ割にて真ん中に置け
運び点てで水指を置く位置は畳の横幅を二つ割り(横幅の4分の1)にした中央に置く。
❚ 用の美と、心のかたち

第20首から第39首にかけては、茶道具の取り扱いや炭・灰といった点前の実務に関する細かな技法が数多く詠まれています。
しかしそれらは単なる手順ではなく、場をととのえ、客をもてなすために欠かせない――用の美――のあり方を教えてくれています。
細部にまで心を配り、形だけではなく精神の深みをもって行われる茶の湯の所作。
そこに宿る利休の教えを、稽古のなかで確かに受け取り、日々の一服に息づかせていきたいものです。
❚ 次回は・・・
次回の「7-4|四十首~五十九首|07.利休百首」では、茶室における立ち居振る舞いや、亭主と客との心のやり取り、さらに道具の格や扱いの心得といった「座の設え」に関わる教えを読み解いていきます。
茶の湯における空間と関係性を深く見つめることで、利休が求めた一座建立の精神にふれてまいります。
登場人物
千利休|せん・りきゅう
……… 天下三宗匠|千家開祖|抛筌斎|千宗易|1522年―1591年
用語解説
筒茶碗|つつちゃわん
……… 背の高い筒状の茶碗。冬に使われることが多い。
茶巾|ちゃきん
……… 茶碗を清めるための布。湿り具合によって使い方が変わる。
炭点前|すみでまえ
……… 湯を沸かすために炭をつぐ所作のこと。炭の美しい配置も重視される。
灰形|はいがた
……… 炭を美しく配置するために整えられた灰の形。美的意識の象徴。
五徳|ごとく
……… 炭を支える金属の台。炭の配置においては風通しと見た目の美しさが求められる。
風炉|ふろ
……… 釜を据える炉の一種で、主に夏場に用いられる。
囲炉裏|いろり
……… 炉を構える場所。灰を整える際の扱いにも決まりがある。
啄木|たくぼく
……… 掛物の巻緒を留める木片のこと。掛物の左右の向きに注意する際の指標。
墨蹟|ぼくせき
……… 禅僧の筆による書。床の間に掛けられ、精神性を象徴する。
姥口|うばぐち
……… 口の位置が胴体より低い釜の形式。
鑵子|かんす
……… 茶の湯における「釜」の総称。
運び点前|はこびてまえ
……… 棚を使わず道具を運んで点前する形式。

