7-2|一首 ~ 十九首|07.利休百首|千宗易利休
- ewatanabe1952

- 2023年5月17日
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更新日:9月11日
全10回 抛筌斎 千宗易 利休

利休百首
― 一首 ~ 十九首 ―
❚ はじまりの一首へ
本項では、茶道の大成者である千利休が弟子たちに遺した教訓歌集「利休百首」より、第1首から第19首までを取り上げ、それぞれの歌が持つ意味と背景を丁寧に読み解いてまいります。
これらの和歌には、茶の湯を学ぶ上で最も大切な心構えや稽古の姿勢、さらには道具の扱いに至るまで、利休が伝えたかった基本精神が凝縮されています。
一つひとつの言葉に込められた教えから、現代に生きる私たちが今なお学ぶべき――茶道のこころ――を紐解いていきましょう。
❚ 一首 ~ 九首

一首、
その道に入らんと思う心こそ我身ながらの師匠なりけれ
何事でもその道に入りそれを学ぶにはまず志を立てねばならない。自発的に習ってみようという気持ちがあれば、その人自身の心の中にもうすでに立派な師匠ができている。
二首、
ならひつつ見てこそ習へ習はずに よしあしいふは愚かなりけり
批評するなら先ずその対象になるものに自ら入り込まねばならない。口先だけの批評では人は納得しない。
三首、
こころざし深き人にはいくたびも あはれみ深く奥ぞ教ふる
熱心な弟子には親切な師匠であるべき。実の子に教えるが如く憐れみ深く細々と教えなさい。
四首、
はぢを捨て人に物問ひ習ふべし 是ぞ上手の基なりける
知らない事を恥と思わず、師匠や先輩に質問しなさい。一度のチャンスを逃し、知らないままなのは大きな損失となり、反対に一時の恥ずかしさを我慢すれば一生の得となる。
五首、
上手には好きと器用と功積むと この三つそろふ人ぞ能くしる
名人上手になる為には、「好きであること」、「器用であること」、最後に「たゆまぬ研さん (修行)」である。
六首、
点前には弱みをすててただ強く されど風俗いやしきを去れ
点前は力が弱すぎてもいけないし、力が入りすぎてもぎこちない。
「気持ちは弱く、動作は強く」と考え、弱くも強くもない中庸を得た点前が良い。
七首、
点前には強みばかりを思ふなよ 強きは弱く軽く重かれ
軽い道具を扱う時は重い道具を持つ気持ちで、重い道具を扱う時は軽い道具を持つ気持ちで。
八首、
何にても道具扱ふたびごとに 取る手は軽く置く手重かれり
道具を置いてその手を離す時はすぐに引くのではなく、ゆっくりと離しなさい。 「置く手重かれ」とはこのことを指しています。
九首、
点前こそ薄茶にあれと聞くものを 麁相になせし人はあやまり
点前の巧拙は運びの平点前の薄茶で最もよく現れる。薄茶の点前がしっかり出来ないのでは、濃茶も練られないはず。何事も基本がもっとも大切です。
❚ 十首~十九首

十首、
濃茶には手前を捨てて一筋に 服の加減と息をもらすな
濃茶は服加減が第一である。加減良く濃茶を練る事に専念し、点前の上手下手を重要視してはいけない。腹に力を入れ呼吸を整えることを心得なさい。
十一首、
濃茶には湯加減あつく服は尚ほ 泡なきやうにかたまりもなく
濃茶は湯加減が大切。湯は熱いほうがよく、茶碗は茶を入れる前によく拭き、初めに十分練りなさい。泡やダマがある内は練られた茶と湯がよく溶け合っていないのです。
十二首、
とにかくに服の加減を覚ゆるは 濃茶たびたび点てて能く知れ
濃茶を加減良く練るには何度も繰り返し練習し経験を積むこと必要があります。
十三首、
よそにては茶を汲みて後茶杓にて 茶碗のふちを心してうて
茶杓で茶碗の縁を打つ時に限らず、茶筅通しや茶碗を拭く時もよくよく十分注意して扱いなさい
十四首、
中継は胴を横手にかきて取れ 茶杓は直におくものぞかし
中継(中次)は蓋が深いので棗のように蓋の上から持てないので、胴の横に手をかけて扱い、蓋上は平面のため、茶杓はまっすぐに置きなさい。
十五首、
棗には蓋半月に手をかけて 茶杓を円く置くとこそしれ
軽い道具を扱う時は重い道具を持つ気持ちで、重い道具を扱う時は軽い道具を持つ気持ちで。
十六首、
薄茶入蒔絵彫物文字あらば 順逆覚え扱ふと知れ
薄茶入で蒔絵、彫物、文字などがある時は棗の表裏や蓋と胴の合口をよく見定めるように注意すること。
十七首、
肩衝は中次とまた同じこと 底に指をばかけぬとぞ知れ
肩衝を持って清めの同拭きする時は中次を持つ時のように、胴の横から持ち、底に指をかけないように。
十八首、
文琳や茄子丸壺大海は 底に指をばかけてこそ持て
重い水指などを持ち上げる時は手軽に持ち、置いた手を離す時は恋人に別れを告げるように。
十九首、
大海をあしらふ時は大指を 肩にかけるぞ習ひなりける
大海茶入の扱いは「平棗扱い」にするが、その時に左手の親指を他の指からはなし茶入の肩にかけて扱う。
❚ 稽古の道しるべとして

第1首から第19首までの和歌は、茶の湯の基本に立ち返り、自らの志を持って学び続けることの大切さを教えています。
師から弟子へと受け継がれる稽古の姿勢や、道具に対する丁寧な向き合い方、そして一挙手一投足に宿る心のありようが、やさしくも厳然とした言葉で説かれています。
茶道は、ただ作法を覚えるだけではなく、その奥にある精神を理解し実践してこそ深まるもの。
これらの教えを日々の稽古の中で意識し、自らの茶の湯を高めていきたいものです。
❚ 次回は・・・
次回の「7-3|三十首 ~ 四十九首|07.利休百首」では、茶室での動作や細部に宿る心遣い、そして客人を思いやる作法の在り方に焦点を当てた歌々を取り上げてまいります。
点前の技巧に留まらず、茶席全体をととのえるための所作や心得に、利休が込めた精神を読み解いていきましょう。
登場人物
千利休|せん・りきゅう
……… 天下三宗匠|千家開祖|抛筌斎|千宗易|1522年―1591年
用語解説
点前|てまえ
……… 茶を点てるための一連の所作や手順。
濃茶|こいちゃ
……… 抹茶を多く用いて濃く練り上げたお茶。格式の高い茶会で用いられる。
薄茶|うすちゃ
……… 抹茶を少なめの湯で点てるお茶。軽やかで親しみやすい。
棗|なつめ
……… 抹茶を入れる蓋付きの器。主に薄茶に用いる。
中次|なかつぎ
……… 濃茶器の一種で、棗よりも蓋が深く胴の膨らみが少ない。
大海|たいかい
……… 大ぶりな濃茶器の一種。口が広く、他の茶入と扱いが異なる。
肩衝|かたつき
……… 肩が張った形の濃茶器。格が高く、名物として扱われることもある。
茶杓|ちゃしゃく
……… 抹茶をすくうための竹製の匙。
茶筅・茶筌|ちゃせん・ちゃせん
……… 茶を点てるために使う竹製の道具。

