5-3|わび茶の昇華 ~武野紹鴎の美学と実践~|第5回 茶の湯文化の誕生|室町時代(後期)|茶道の歴史
- ewatanabe1952

- 2023年2月17日
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全10回 茶道の歴史

第5回 茶の湯文化の誕生 (3/6)
― 室町時代 (1336年―1573年) |後期 ―
❚ 茶の湯が“道”となるとき
茶の湯は、どのようにして“道”となったのでしょうか。
茶を点てることに、心の在り方を重ねてゆく――。
そこに新しい茶の美学が生まれました。
今回は、わび茶**を深化させ、茶の湯を道へと導いた武野紹鴎**の歩みに迫ります。
❚ 珠光の死と紹鷗の誕生

文亀二年(1502年)、「わび茶」を提唱した村田珠光*が世を去ります。
運命の巡り会わせか、のちの「わび茶」の発展において重要な役割を果たすこととなる武野紹鷗が同年に誕生します。
武野紹鷗は村田珠光が提唱した「わび茶」の精神を受け継ぎ、それらをさらに継承し、進化、完成させていきます。
そして、それまで遊興や儀式の一つでしかなかった「茶の湯」を「わび」の精神を基盤とした「道」へと昇華させ、今日の茶道の原型を築くこととなりました。
❚ 静寂な空間と和物道具

家業(武器商人)のかたわら「茶」の宗匠としても活動した武野紹鷗。
武野紹鷗はそれまでの「会所**」でおこなわれていた広間での茶の湯でなく、四畳半の茶室において和物道具を用いた簡素で静寂な喫茶空間を創出しました。
この設えは、茶の湯における空間美の在り方を大きく変えるものでした。
また武野紹鷗は『紹鴎茄子*』をはじめとする六十種もの「名物道具」を所蔵する富豪であったとされています。
しかし、その一方で「無一物*」の境涯を理想とし、富と簡素の相反する要素を共存させる「わび茶」を実践していきました。
この頃の史料には
❞
現在の幾千万の茶道具は、すべて紹鴎が見出された
❝
と記されるほど、武野紹鷗は茶道具の世界にも大きな影響を与えた人物でした。
しかし名物といわれる道具を六十種も所有する一方、今日にも通ずる「自作の茶杓」や「青竹の蓋置」、「釣瓶」を水指に見立てるなど「木(木材)の美」を「茶の湯」に加えるなど独自の発想を取り入れました。
これらの創意は、後の茶道具の発展に多大な影響を与えています。
❚ 型を遺すということ

武野紹鷗は今日の茶会記*の原型ともなる茶会の記録を遺しています。
道具・空間・所作に加え、記録という“型”を残したことも重要な功績のひとつです。
記録という“型”を通じて、茶の湯の精神と実践を後世へと伝える礎を築きました。
これにより、茶の湯は芸術や宗教の域を超え、人間の生き方としての「道」へと歩み出すこととなります。
❚ わび茶の道しるべ
「無一物」の境地を理想としながらも、豊かさと簡素さという相反する要素を共存させた武野紹鷗。
やがてわび茶の実践は、後の千利休によってさらなる高みへと導かれていきます。
武野紹鷗のあゆみはまさに「わび茶の道しるべ」となったのです。
道具に心を込め、空間に精神を宿す。
武野紹鷗が打ち立てた「わび茶」は、華美から離れた静けさの中に深い美と思想を育てていきました。
次回は、そんな紹鷗の精神を継ぎ、茶の湯を芸道として極めた千利休の世界へと足を踏み入れていきます。
登場人物
武野紹鷗
……… 豪商|茶人|1502年―1555年|利休の師
村田珠光
……… 僧|1423年―1502年|わび茶の祖
千利休
……… 千家開祖|抛筌斎 千宗易(利休)|1522年-1591年|茶道の大成者
用語解説
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武野紹鴎
―たけの・じょうおう―
1502年-1555年。堺の豪商であり、茶人として「わび茶」を大成した人物です。村田珠光の精神を受け継ぎ、質素で簡素な中に美を見出す茶の湯を追求しました。唐物に偏らず、国産の道具や日常品も取り合わせ、精神性と実用性を重んじた茶風を確立。千利休の師として、後の茶道の発展に大きな影響を与えました。
村田珠光
―むらた・じゅこう―
名物道具
―めいぶつどうぐ―
紹鷗茄子
―じょうおうなす―
武野紹鷗が所持していたと伝わる名物茶入で、茄子形の唐物茶入の一つです。宋または元時代の中国で作られ、日本に伝来した後、紹鷗の美意識により特に愛用されました。滑らかな肌合いと落ち着いた姿が特徴で、わび茶の精神を体現する茶器として、後の茶人たちにも高く評価されました。現在は重要文化財に指定されています。
無一物
―むいちもつ―
「無一物」とは、禅の教えに基づく思想で、「一切を捨て去った無の境地」を意味します。何も持たず、執着を離れた心こそが真の自由であり、悟りへの道であるとされます。茶道においてもこの精神は重視され、千利休の「わび茶」に通じる美意識として受け継がれました。物質より心を尊ぶ、日本文化の根底にある思想のひとつです。
茶会記
―ちゃかいき― 茶会の内容を記録した文書で、開催日・会場・亭主・客の名前から、用いた茶道具・花・懐石料理・掛物などに至るまで詳細に記されます。室町時代から記録が残り、特に千利休以降、茶人の重要な記録手段として発展しました。茶の湯の実践や美意識、道具の由緒を伝える貴重な資料として、今日でも研究や稽古に活用されています。
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