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1-5|水屋とは|水屋の歴史と設え|茶室と露地

更新日:1 日前

茶道の基礎知識



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■ 茶室と露地 ■

水屋とは






❚ 目次











❚ 01.水屋とは

水屋とは、茶室に隣接して設けられる空間で、茶事・茶会・稽古に際しての準備や後片付けを行う場所です。点前道具をはじめ、茶事懐石の支度、炭や花の用意、道具の管理など、亭主が客人をもてなすためのすべての支度が水屋で整えられます。

茶道の実践において、水屋は欠かすことのできない重要な機能空間です。



しかし水屋は、単なる作業場ではなく、茶道における学びの場としても位置づけられています。

道具の扱い方や配置、作業の手順には細かな決まりがあり、それらを正しく身につけることは、茶道の基礎を学ぶことそのものといえます。そのため、水屋は稽古の場としての性格も持ち、常に清潔さと整理整頓が求められます。



水屋での所作を通じて、もてなしの心、無駄のない動き、全体を見渡す配慮といった、茶の湯の本質が自然と養われていきます。茶室での点前や振る舞いは、水屋での心構えと準備があってこそ成り立つものです。



裏千家の大水屋には、裏千家十三代/圓能斎鉄中宗室(1872-1924)による「此処ハ側茶室ノ道場ナリ」

という言葉が掲げられています。この言葉は、水屋が茶室に付随する裏方の空間ではなく、茶の湯の精神と作法を学び、身につけるための修練の場であることを示しています。



茶道において、水屋の心得を身につけることは、茶の湯全体への理解を深め、亭主としての所作や心構えを洗練させることにつながります。その意味において、水屋は茶室と同様に、茶道を学ぶ上で極めて重要な空間であるといえるでしょう。











❚ 02.水屋 ―役割―

水屋は、単なる道具の保管場所ではなく、茶会全体を裏側から支える中枢的な役割を担う空間です。亭主の所作や茶席の進行は、水屋での準備と運営によって大きく左右されます。



水屋の主な役割は、次の点に集約されます。


茶器や抹茶の準備

茶会の進行に応じて、必要な茶碗や茶器、抹茶を整え、適切なタイミングで茶室へ渡します。道具の取り合わせや順序を誤らないことが求められ、水屋での段取りが茶会の流れを左右します。

茶碗や道具の洗浄・管理

使用後の茶碗や茶器を洗い清め、次の席や点前に備えて整えます。道具を丁寧に扱い、常に清浄な状態を保つことは、茶の湯の基本とされています。

炭や釜の管理

炭の準備や補充、釜の水加減や状態の確認など、点前を支える火と水の管理も水屋の重要な役割です。表に見えない部分での細やかな配慮が、茶席の安定につながります。

茶会進行の補助

茶席の進み具合に合わせて道具を渡し、無駄な動きや間を生じさせないよう支えます。水屋の動きが整っていることで、客人は茶に集中でき、静かな緊張感のある空間が保たれます。


このように、水屋の働きは茶室に直接現れることは少ないものの、茶会全体の美意識や雰囲気を根底から支えています。整った水屋の運営は、亭主のもてなしの心を形にし、茶道の精神を実践するうえで欠かせない存在といえるでしょう。











❚ 03.水屋 ―名称―

水屋という言葉にはさまざまな表記や由来があり、古くは「水遣」「水谷」とも書かれてきました。

また、かつては「勝手」とも呼ばれ、茶室における裏方の空間として認識されていたことが知られています。



現存する最古の茶会記である松屋会記では、水屋を指す語として「勝手」が用いられています。

また、天正十六年(1588)に豪商・茶人であった山上宗二(1544-1590)が記した山上宗二記には、「水ツカウハシリ」という記述が見られます。


この表現を分解すると、「水ツカウ」は水を遣うこと、「ハシリ」は流し場を意味すると考えられ、当時すでに水を扱う専用の空間が存在し、現在の水屋とほぼ同じ役割を果たしていたことがうかがえます。



水屋という名称の起源については諸説あり、主に以下の三つの説が考えられています。


01.水屋形に由来する説

水屋形とは、神社や寺院の参道脇、社殿前などに設けられ、参拝者が手や口を清めるために用いられた手水鉢や水盤を指す言葉です。 この水屋形が略され、「水屋」と呼ばれるようになったと考えられています。 この説からは、水屋が茶室の清浄な空間を支える役割と共通する性格を持つことが読み取れます。

02.斎戒沐浴に由来する説

斎戒沐浴とは、飲食や行動を慎み、心身の穢れを清めることを意味します。 このうち「浴」の字を「水」と「谷」に分けて当てた結果、「水谷」という表記が生まれ、それがのちに「水屋」へと変化したと考えられています。 水屋を単なる作業場ではなく、清浄を保つ場とみなす考え方が背景にある由来といえるでしょう。

03.水谷神社に由来する説

奈良にある水谷神社は、化政年間(1804-1830)以前には水屋神社と称されていました。 古くから水屋には飲料水を司る神が宿ると考えられており、実用的な「水遣」という意味に加え、水屋神社の名にあやかって「水屋」という名称が用いられるようになったとする見方です。 この説からも、水屋が水を清め、管理する神聖な空間として捉えられていたことがうかがえます。


これらの説に共通しているのは、水屋という言葉が「水」と深く結びつき、清浄や慎みの精神を内包している点にあります。

江戸時代中期以降の書物にはすでに「水屋」や「水ヤ」といった表記が確認されており、以後この名称が定着していきました。



■ 斎戒沐浴 ■

斎戒沐浴とは、神事や仏事を行う前に心身を清め、食事を慎み、身体の穢れを浄めることを指します。

・「斎」 … 心身を清く保つこと。

・「戒」 … 誤りを慎み、規律を守ること。

・「沐浴」 … 湯水で身体を洗い清めること。

この精神は茶道においても「水屋を清める行為」として通じており、茶の湯の場を神聖な空間として整える大切な役割を果たしています。



​水屋は単なる作業場ではなく、水を扱う神聖な空間として、さまざまな由来を持つ言葉と共に発展してきました。江戸時代(1603-1868)以降、「水屋」という名称が定着し、今日まで茶道の一部として大切に受け継がれています。



茶室における水屋の存在は、茶道の理念と実践を支える重要な役割を担っており、その語源にも茶の湯の精神が深く息づいているのです。











❚ 04.水屋の歴史

水屋の歴史は、茶室という建築様式が成立する以前の時代にまで遡ります。



室町時代(1336-1573)、喫茶の場として用いられていた会所には、今日のような独立した水屋は存在していませんでした。この時代には、茶道具一式を飾り置くための「茶湯棚」が設けられており、これが水屋の前身的な役割を果たしていたと考えられています。

また、当時の神社や寺院の記録には、「茶湯水棚」や「水棚」といった言葉が見られます。これらは水や茶の用意を行うための棚を指しており、後の水屋へと発展する原型の一つとみなされています。



さらに、室町期の亭主は、茶の湯に臨む前に髪や髭を整え、身を清める「水浴」を行っていたとされています。これは仏教における斎戒沐浴の思想と通じるものであり、茶の湯を神聖な行為として捉えていた当時の意識を示すものと考えられます。ただし、こうした水浴のための設備が現存する茶室は、今日まで確認されていません。



その後、茶室が成立してからも、当初は今日のような専用の水屋は設けられていませんでした。茶室の縁側や書院の一角に棚を置き、道具を準備・管理していたと考えられています。

しかし、茶の湯が形式化し、道具の点数や扱いが増えるにつれて、準備や管理を行うための専用空間が必要とされるようになりました。



やがて、千家開祖/抛筌斎千宗易利休(1522-1591)の登場により、水屋のあり方は大きく整えられていきます。利休は、水屋に棚や水皿を設け、茶の湯の準備と後始末を行うための機能的な空間として、水屋の原型を完成させました。水屋は単なる道具置き場ではなく、亭主が心を込めて道具と向き合うための重要な場として位置づけられるようになります。

この頃から、水屋は茶室とは明確に区別された独立空間として設けられ、道具の清めや準備にとどまらず、炭の扱い、懐石の支度、花の用意など、茶事全体を支える役割を担うようになりました。



江戸時代(1603-1868)に入ると、水屋の形態はさらに整えられていきます。

元禄十四年(1702)には、茶匠であり宗旦四天王の一人として知られる、宗偏流開祖・山田宗徧(1627-1708)が記した利休茶道具図絵に、「水遣の寸法」として、棚板の長さや框の作り、釘の打ち方などが詳細に記されています。この記述から、この時代にはすでに水屋の構造や形式が一定の基準を持って整えられていたことがわかります。



このようにして、水屋は時代とともに機能と形態を確立し、茶室に不可欠な空間として定着しました。水屋は単なる作業の場ではなく、茶の湯におけるもてなしの心を支え、亭主が道具と静かに向き合うための場として、今日まで重要な役割を担い続けています。



水屋の歴史は、茶の湯の発展そのものであり、その変遷を知ることは、茶道における精神と実践の深まりを理解することにつながるといえるでしょう。











❚ 05.水屋 ―水屋棚―

水屋棚とは、水屋に設えられる棚で、茶の湯の準備や後片付けを円滑に行うために、道具を整理・収納しやすく構成された設備です。水屋棚は、水屋の中心的な存在であり、亭主の所作や作法を支える重要な役割を担っています。



一般的な水屋棚の寸法は、

・間口 … 台目幅の四尺半(約136.5cm)

・奥行 … 二尺(約60.6cm)

・高さ … 五尺五寸(約166.5cm)

とされ、水屋の規模や用途に応じて設計されます。これらの寸法は、茶道具の出し入れや作業動線を考慮した、合理的な基準として定着してきました。



水屋棚の下部には、水を扱うための設備として「流し」が設けられ、これを水皿と呼びます。

水皿には取り外し可能な蓋が付けられ、清掃しやすい構造になっています。また、底部を舟形にして水音を和らげるなど、静寂を重んじる茶の湯の思想に配慮した工夫が施されています。





■ 形式 ■

水屋棚の形式は、流派や水屋の規模により異なりますが、代表的なものとして 「表千家」と「裏千家」 の違いが挙げられます。​


表千家

表千家の水屋棚では、柄杓を棚に置くため、水皿周囲の腰板が低く作られています。棚は上部に二種類の二枚棚が設けられ、さらにその上に二重の隅棚を備える構成が特徴です。比較的簡潔ながら、道具を整然と配置できる設計となっています。

裏千家

裏千家の水屋棚では、水皿まわりの腰板を柄杓が掛かる高さに設け、その上に三種類の四枚棚を配置するのが特徴です。棚の数が多く、点前道具や予備の道具を効率よく収納できる、機能性を重視した構造となっています。




■ 設備 ■

水屋の規模に余裕がある場合、水皿の横に物入を設けたり、上部に棚や天袋を設置することがあります。また、水屋前面を板張りにし、炭や灰を収納するために、床に榑縁(くれえん)と呼ばれる切り目の入った板の間を設けることもあります。

かつては電気設備が整っていなかったため、水屋には丸炉と呼ばれる炉が設置され、替えの釜や火を常に用意できるよう工夫されていました。さらに古式の水屋では、水道設備が存在しなかったため、腰板の一部に水上口(水張口)を設け、水を運び入れるための仕組みが備えられていました。





■ 種類 ■

水屋棚には、規模や用途に応じたさまざまな種類があります。


大水屋

読み:おおみずや 間口一間(約182cm)、奥行二尺五寸(約75.7cm)ほどの大型の水屋棚で、多人数の茶事や大規模な茶会に対応する設備を備えています。

置水屋

読み:おきみずや 持ち運び可能な水屋棚で、臨時の茶会や場所を選ばず使用できる移動式の水屋として用いられます。


水屋棚は、単なる道具置き場ではなく、茶の湯の準備を整え、亭主がもてなしの心を形にするための重要な設備です。その構成や寸法、細部の工夫には、無駄を省きながら美しい所作を生み出すための茶の湯の思想が反映されています。



水屋棚の構造や特徴を理解することは、水屋そのものの役割を知るだけでなく、茶室の裏側で支えられている茶の湯の世界を、より深く理解することにつながります。











❚ 06.水屋 ―設え―

水屋には、茶道具を整理し、準備や片付けを円滑に行うために水屋棚が設けられています。水屋は単なる収納の場ではなく、茶の湯の流れを滞りなく進めるための重要な空間であり、道具の置き方や配置には一定の考え方があります。



水屋における道具の整頓や配置の方法は、「水屋飾」あるいは「水屋荘り」と呼ばれ、水屋の秩序を保つための基本的な心得として、次のような原則が伝えられています。



■ 水屋飾(水屋荘り) ■

一、水に関するものは下に

二、火に関するものは上に

三、大きいものや使用頻度の少ないものは上に



1.水に関するものは下に置く

茶碗、柄杓、水指、建水、湯桶など、水を扱う道具は、取り扱いやすさを重視して下の棚に配置します。 使用頻度が高く、動作の中心となる道具を低い位置に置くことで、点前や準備の流れが自然になり、無駄のない所作につながります。

2.火に関するものは上に置く

風炉釜、炭道具、火箸、香合、灰器など、火を扱う道具は、安全面と保存性を考慮し、上の棚に置かれます。 湿気を避けやすく、火を扱う際にも自然と慎重な動作を促す配置といえます。

3.大きいものや使用頻度の少ないものは上に置く

大型の道具や、季節や茶事の内容によって使用頻度が限られるものは、動線を妨げないよう上部に整理します。たとえば、炉の時期にのみ用いる道具や、特定の茶事で使用される道具などがこれにあたります。


水屋の設えは、単に道具を収納するための工夫ではなく、茶事の進行や亭主の心配りを支える重要な要素です。

整然とした水屋は準備や片付けを円滑にし、結果として茶席全体の調和と美意識を高めます。



適切に整えられた水屋は、亭主の心得と心構えを映し出す鏡ともいえます。

日々の清掃と整頓を怠らず、道具を正しく配置することは、もてなしの第一歩であり、茶の湯の精神を体現する基本とされています。











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