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1-2|茶室の構成|茶室建築の知恵|茶室と露地

茶道の基礎知識



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■ 茶室と露地 ■

茶室の構成






❚ 目次











❚ 01.茶室の構成

茶室とは、茶の湯を行うために設えられた特別な空間であり、単なる建築物ではなく、亭主と客人が心を通わせるための場としての意味を持っています。その構成は、茶道の理念に基づき、機能性と美意識が高度に融合したものとなっています。



茶室は大きく「広間」と「小間」に分類されます。広間は四畳半以上の広さを持つ茶室で、格式のある茶会や公式な席に用いられることが多く、ゆとりある構成が特徴です。一方、小間は四畳半以下の小規模な茶室で、空間を極限までそぎ落とすことで、わび茶の精神を色濃く体現した親密な場となっています。



茶室の基本的な構成要素としては、客人が着座する「客座」と、亭主が点前を行う「点前座」があり、両者の関係性や動線は綿密に計算されています。この配置によって、亭主の所作が自然に流れ、客人が静かに茶に向き合える空間が生み出されます。



また、床の間、にじり口、茶道口、給仕口といった要素は、単なる設備としてではなく、茶の湯の精神や身分の平等、謙虚さ、もてなしの心を象徴する装置として設けられています。それぞれが明確な役割と意味を持ち、茶室全体の思想を支えています。



茶室は、個々の要素を寄せ集めたものではなく、炉の位置、天井の造り、屋根の勾配、窓の配置、柱の選定に至るまで、すべてが一体となって構成されています。これらはすべて、亭主と客人が「一期一会」の精神のもと、同じ時を共有するために整えられたものです。



このように、茶室の構成は、空間そのものが一つの物語となるよう意図されており、茶会全体が流れるように展開するための舞台として緻密に設計されています。











❚ 02.茶室の構成 ―畳―

畳は、日本の伝統的な床材であり、奈良時代から使用されてきました。当初は貴族の寝具として用いられ、平安時代には座具や敷物としての用途が広がります。



室町時代以降、武家や寺院において畳を敷き詰める形式が一般化し、空間の格式を示す要素となりました。茶道が発展するにつれ、畳の大きさや敷き方が重要視されるようになり、現在の茶室文化に深く根付いています。



茶室において畳は、単なる床材ではなく、亭主と客人の座る位置、点前の所作、茶席の格式などを決定する重要な要素です。畳の寸法や配置には一定の決まりがあり、それぞれの役割が明確に定められています。



■ 畳の規格 ■

畳の寸法には地域ごとの違いがあり、代表的な規格として以下の三つが上げられます。


京間(本間)

読み:きょうま 別名:本間・関西間 寸法:955mm×1910mm(約1.82m²) 京都を中心とした関西圏や西日本で使用される畳で、日本で最も大きな規格です。 一間(六尺三寸)を基準としており、広々とした空間を生み出すのが特徴で、京町家や伝統的な茶室にも多く用いられています。

中京間

読み:ちゅうきょうま 別名:三六間 寸法:910mm×1820mm(約1.66m²) 名古屋を中心とする中京地方ので使用される畳の規格で、京間と江戸間の中間的なサイズになります。 三六間という名称は、畳の縦横比が2:1であることに由来しています。 京間よりもコンパクトながら、江戸間よりも広く、バランスの取れたサイズ感が特徴です。

江戸間

読み:えどま 寸法:880mm×1760mm(約1.55m²) 江戸間は、東京を中心とする関東地方で広く使われている畳の規格で、日本の標準的なサイズとされています。 京間と比べるとやや小さめですが、これは江戸時代の住宅事情や生活様式に適していたためと考えられています。 今日では、新築住宅や賃貸物件などでも広く採用される最も一般的な畳サイズです。

団地間

読み:だんちま 別名:五六間 寸法:850mm×1700mm(約1.44m²) 団地間は、高度経済成長期以降に建築された集合住宅の規格に合わせて考案された比較的新しい畳のサイズである。 団地間の特徴は、限られたスペースを効率的に活用できることにあり、都市部の住宅事情に適したサイズとして広く採用されています。





■ 畳の用途 ■

茶室で用いられる畳の代表的な用途には、以下の3種類があり、それぞれの特徴に応じて用途が異なります。


​丸畳

読み:まるだたみ 一畳分の標準的な大きさを持つ畳で、茶室では点前畳や客畳として用いられます。 亭主が点前を行う場所、客が着座する場所として使用される、茶室の基本となる畳です。

半畳

読み:はんだたみ 丸畳の半分の大きさの畳で、四畳半の茶室では中央に敷かれ、その中に炉を切ることが多く見られます。 中央に半畳を配することで、炉の位置が安定し、茶室全体の均衡が保たれます。

台目畳

読み:だいめだたみ 畳の四分の三の大きさを持ち、茶室の空間構成に変化を与えるために用いられます。 「一畳台目」の茶室では、亭主が点前を行う畳として用いられ、その独特な寸法が緊張感と簡素の美を生み出します。





■ 畳の名称 ■

茶室内においては畳の敷き方も決められており、その敷く場所によって下記の通り名称と役割が決められています。

代表的な畳の敷き方については以下があげられます。


踏込畳

読み:ふみこみだたみ ​茶道口から茶室に入った際に最初に踏み込む畳。 亭主が茶室に入る際に最初に足を踏み入れる場所であることからこの名称がつきました。

点前畳

読み:てまえだたみ 別名:道具畳・亭主畳 ​亭主が点前を行う畳。 大きさは丸畳または台目畳が用いられ、亭主の所作に適した配置が施されます。

客畳

読み:きゃくだたみ ​客人が座る畳。 四畳半の茶室では通常、一畳分が客畳として用意されますが、二畳や三畳などの小間では踏込畳や貴人畳と兼用されることが多くなります。

貴人畳

読み:きじんだたみ 別名:床前畳 床の間の前に敷かれる畳。 特に身分の高い客が座る場所とされており、通常は遠慮して座らないのが習わしとされています。

通畳

読み:かよいだたみ ​踏込畳と客畳の間に敷かれる畳。 亭主や客人が通るための畳を指し、通常、人が座ることはなく、四畳半の茶室では踏込畳が通畳の役割を兼ねることもあります。

炉畳

読み:ろだたみ ​炉が切られている畳。 四畳半の茶室では中央の半畳が炉畳となり、冬の季節に炉を開けることで茶席に温かみをもたらします。


茶室の畳は、単なる床材ではなく、亭主や客人の動線を導き、茶の湯の精神を空間として表現する重要な要素です。

畳の規格や敷き方、名称を理解することで、茶室の設計に込められた意味や、亭主のもてなしの心をより深く感じ取ることができます。











❚ 03.茶室の構成 ―炉―

茶室における「炉」は、茶を点てるために湯を沸かす重要な設備であり、その配置や切り方によって、亭主の所作や茶席全体の趣が大きく左右されます。

炉の切り方には「入炉(向炉・隅炉)」と「出炉(四畳半切・台目切)」があり、さらにそれぞれに「本勝手」「逆勝手」の形式があるため、組み合わせると八通りの配置が考えられます。

これを「八炉の法」といいます。


■ 入炉 ~いりろ~ ■

入炉とは、亭主が座る点前畳の内部に炉を切る方式です。

点前畳内に炉が設けられることで、亭主が手元で直接火を扱えるため、操作性に優れている点が特徴です。


​向炉

読み:むかいろ 炉を客畳側に寄せて切る形式です。 客人から炉の火がよく見える位置にあり、炉の存在が視覚的に強調されることで、亭主の所作がより際立ちます。

隅炉

読み:すみろ 向炉を左側に移動させ、畳の隅に切る形式です。 千家開祖/抛筌斎千宗易利休(1522-1591)が、国宝茶室「待庵」で初めて試みたとされ、炉を点前座の端に配することで空間を簡潔に見せる効果があります。





■ 出炉 ~でろ~ ■

出炉とは、点前畳の外側に炉を切る方式で、炉が点前畳の外に位置することからこの名が付けられています。

入炉に比べて炉との距離が生じるため、亭主の所作や茶席の印象に変化を与えます。

出炉には、以下の「四畳半切」と「台目切」があります。


四畳半切

読み:よじょうはんぎり 「広間切」とも呼ばれる、最も一般的な炉の切り方です。炉は点前畳の長辺を二等分した位置から下座側に切られ、格式を重んじる茶会などで多く用いられます。

台目切

読み:だいめぎり 点前畳の長辺を二等分した位置から上座側に炉を切る形式です。 点前畳が台目畳(四分の三畳)の場合と、通常の一畳(丸畳)の場合とで切られる位置が異なります。 丸畳の場合は「上台目切~あげだいめきり~」または「上切~あげきり~」と呼ばれます。

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■ 勝手 ~かって~ ■

「勝手」とは、亭主の利き手(主に右手)を基準として、茶室内の構成を定める考え方です。

茶室では、書院造とは異なり、右から採光する床の間を基本とする形式が一般的です。


本勝手

読み:ほんがって 別名:右勝手・順勝手 亭主が点前座に座ったとき 右側に客が着座する配置を指します。 右手で茶を点てやすい構造になっており、通常の茶室は本勝手を基本としています。

逆勝手

読み:ぎゃくがって 別名:左勝手・左構 亭主が点前座に座ったとき 左側に客が着座する配置を指します。 本勝手とは異なる所作が求められるため、流派によっては特別な点前が行われる場合もあります。





■ その他(大炉) ■

極寒の二月に限り行われる大炉点前にて用いる炉の切り方です。


​​​​大炉

読み:だいろ ​通常の炉(一尺四寸四方)より大きく、一尺八寸四方に切られる炉です。 裏千家十一代/玄々斎精中宗室(1810-1877)が、北国の寒冷地における使用を考慮し、囲炉裏の発想を取り入れて考案しました。 「大炉は一尺八寸四方、四畳半左切を本法とす。ただし、六畳の席も可」とされ、基本的に逆勝手での点前が行われます。





■ その他(水屋) ■

茶室に付随する水屋においては以下のような炉があります。


長炉

読み:ながろ 長方形に切られた炉で、水屋などの作業空間に設けられます。 一度に多くの湯を沸かすことができ、茶会や点前の準備を効率的に進める目的で使用されます。

丸炉

読み:まるろ 円形の鉄製炉で、水屋の控え釜などに用いられます。 湯の温度を一定に保ちやすく、小規模な点前や補助的な湯の確保に適した炉です。


茶室の炉は、単に湯を沸かすための設備ではなく、亭主の所作や客との関係性を踏まえて緻密に計算された存在です。

炉の切り方や配置によって、空間の印象や点前の流れが大きく変わり、茶の湯におけるもてなしの精神を象徴する重要な要素となっています。



炉の位置や形状に目を向けることで、茶室に込められた亭主の意図や茶席の思想を、より深く感じ取ることができるでしょう。











❚​ 04.茶室の構成 ―天井―

茶室の天井は、単に屋根を覆うためのものではなく、空間の印象を大きく左右する重要な要素です。

限られた広さの中にいかに変化を持たせ、奥行きや広がりを感じさせるかが工夫されており、天井の高さや形状は亭主と客人の位置関係や、茶室の持つ格式を表現するためにも用いられます。

茶室にはさまざまな天井形式があり、それぞれに独自の意味や役割が込められています。



以下に代表的な天井形式を紹介します。


平天井

読み:ひらてんじょう 最も一般的な天井形式で、天井面を水平に仕上げたものを指します。 一見簡素ながら、用いられる材や仕上げによって印象は大きく異なり、茶室の格式や空間の雰囲気を左右する重要な要素となります。

落天井

読み:おちてんじょう 別名:下がり天井 平天井を二段造りとし、一部の天井を低く設けた形式です。 点前座の天井を低くし、客座より控えめな高さとすることで、亭主の謙虚な姿勢やへりくだった心を空間的に表現します。

掛込天井

読み:かけこみてんじょう 平天井と化粧屋根裏を組み合わせた天井形式で、点前座や給仕口など一部の天井を低く設ける構成です。 客座との対比によって空間に奥行きを与え、茶室特有のリズムと変化を生み出します。

舟底天井

読み:ふなぞこてんじょう 舟の底を伏せたような緩やかな曲線を描く天井形式です。 天井に動きが生まれることで圧迫感が軽減され、室内にやわらかで落ち着いた印象を与えます。

化粧屋根裏

読み:けしょうやね 天井板を張らず、垂木や木舞(こまい)、裏板など屋根裏の構造材をそのまま見せる形式です。 屋根の勾配が露出することで開放感が生まれ、「突上窓」を設けて採光を行う例も見られます。

竿縁天井

読み:さおぶちてんじょう 細い竿縁を一定間隔で渡し、その上に天井板を張った天井です。 端正で整った印象を与えるため、格式の高い茶室や書院造の茶室に多く用いられます。

格天井

読み:ごうてんじょう 木の桟を格子状に組み、その内部に天井板をはめ込んだ形式です。 武家屋敷や格式のある茶室に見られ、重厚で威厳のある空間を演出します。

網代天井

読み:あじろてんじょう 竹や木を薄く割り、網目状に編んで仕上げた天井です。 繊細な質感と独特の風合いがあり、茶室にやわらかな趣を添えます。

鏡天井

読み:かがみてんじょう 客座の上部のみを平天井とし、他の天井形式と区別して設ける意匠です。 客人に対する敬意を示すための設えとして用いられます。

席天井

読み:せきてんじょう 点前座の上部に設けられた天井で、周囲より一段低く造られます。 亭主の謙虚な姿勢を空間構成として示す役割を担います。

屋根板天井

読み:やねいたてんじょう 屋根材をそのまま天井として見せる形式で、梁や垂木が露出するのが特徴です。 簡素ながら力強く、素材の存在感が際立つ天井です。

簾天井

読み:すだれてんじょう 簾を天井材として張ったもので、軽やかで涼しげな印象を与えます。 主に夏の茶席で季節感を演出するために用いられます。

土天井

読み:つちてんじょう 天井面を塗土で仕上げた形式です。 武家茶室などに見られ、重厚で落ち着いた趣を持ちます。

貼付天井

読み:はりつけてんじょう 天井全面に薄い板を貼り付けて仕上げた天井です。 構造が比較的簡素で、現代の住宅にも通じる形式といえます。

引違天井

読み:ひきちがいてんじょう 天井板を引違い構造とした形式で、開閉が可能な場合もあります。 換気や点検の目的で用いられることがあります。

砂摺天井

読み:すなずりてんじょう 天井板の表面に細かな砂を撒いて仕上げた天井です。 独特の質感を持ち、光の反射を抑える効果があります。

一崩天井

読み:いちくずしてんじょう 一方を高く、もう一方を低くなるように傾斜をつけた天井形式です。 空間に動きと広がりを与え、視覚的な変化を生み出します。


茶室の天井は、単なる構造要素ではなく、空間の広がりや亭主と客人の関係性、さらには茶の湯の精神性を表現する重要な存在です。



天井の違いを知ることで、茶室という空間がいかに緻密に計算され、意図をもって設計されているかを、より深く理解することができます。











❚ 05.茶室の構成 ―窓―

茶室の窓は、単なる採光や通風のための設備ではなく、空間の趣や雰囲気を決定づける重要な要素の一つです。

茶の湯の世界では、窓の形状や配置によって光と影を巧みに操り、室内に独特の奥行きや静寂を生み出します。また、壁面意匠の一部としても計算されて設けられており、茶室ならではの美意識と精神性が色濃く反映されています。



以下では、代表的な窓について解説します。


下地窓

読み:したじまど 別名:塗さし窓 / 塗残し窓 / かきさし窓下地窓 下地窓とは、土壁を塗り仕上げず、壁の下地をあえて露出させたまま設けられる窓のことを指します。 本来、建築では壁面を完全に塗り固めて仕上げるのが一般的ですが、茶室ではこの常識を外し、下地を見せることで素朴で洗練された趣を表現します。 この手法は、「わび茶」の精神と深く通じるものであり、装飾を極力排した簡素な美を体現する要素となっています。下地窓は壁面の任意の位置に設けることができ、光の入り方や視線の抜けを調整しながら、茶室ならではの空間演出を可能にする意匠として用いられています。

連子窓

読み:れんじまど 連子窓は、窓の外側に竹や木を細く割った格子(連子)を取り付けた形式の窓です。 茶室では、ほとんどの場合、竹を用いた「竹連子窓」が採用されます。 連子によって直射光はやわらかく遮られ、室内には穏やかな陰影が生まれます。同時に、外部からの視線を防ぎつつ、風を通す役割も果たします。連子の間隔や配置によって光の入り方が変化するため、茶室ごとに異なる表情が生まれる点も特徴です。 連子窓は、閉鎖しすぎない適度な開放感を保ちながら、茶室の静寂と落ち着きを高める重要な存在といえるでしょう。

突上窓

読み:つきあげまど 突上窓は、茶室の屋根部分に設けられる天窓の一種で、開閉可能な覆い戸を木や竹の突上げ棒で支える構造となっています。主に「掛込天井」の中央に設けられることが多く、採光や換気のために重要な役割を果たします。 突上窓は、閉じることで室内に静謐な空気を生み出し、開くことで光や風を取り入れることができます。季節や天候に応じて調整が可能であり、夏には通風を確保し、冬には室内の温もりを保つといった機能性も備えています。 実用性と美的効果を兼ね備えた突上窓は、茶室における自然との関係性を象徴する存在でもあります。


茶室の窓は、単なる機能設備を超え、美意識や精神性を体現する重要な構成要素です。

窓の形や配置、素材の選択には細やかな意図が込められており、それらを理解することで、茶室がいかに繊細な思想のもとに設計されているかが見えてきます。

茶の湯における「もてなしの精神」は、こうした空間の細部にまで息づいているのです。











❚​​ 06.茶室の構成 ―出入口―

茶室において出入口は、単なる通路ではなく、亭主と客人それぞれの動作や立場、そして茶の湯における「もてなしの心」を体現する重要な構成要素です。

出入口の種類や形状は、茶室の規模や構成、流派の思想によって異なり、それぞれに明確な意味と機能が与えられています。



以下では、亭主の出入口と客人の出入口に分けて解説します。


■ ​亭主の出入口 ■


茶道口

読み:さどうぐち/ちゃどうぐち 亭主が点前を行う際に出入りするための出入口で、茶室の間取りにより「背口」と「腹口」の2種類に分かれます。 背口:点前座の背面に設けられ、亭主が直線的に入室できるもの。 腹口:点前座の横に設けられ、側面から入室するもの。 小間では「方立口」「火燈口」「袴腰口」「通口」「釣襖」などさまざまな形状があり、広間では障子や襖が用いられます。

給仕口

読み:きゅうじぐち 給仕口は、点前以外の作業で亭主や半東が使用する出入口で、懐石料理の給仕や道具の出し入れのために設けられます。 一般的には「火燈口」が用いられますが、流儀や茶室の設計によっては「袴腰口」が使われることもあります。

通口

読み:つうぐち・かよいぐち 茶室と水屋とをつなぐ出入口で、給仕や道具の搬入など、実務的な用途に用いられます。 機能的には給仕口と同じ意味合いで用いられます。




■ 亭主の出入口 (形状) ■


方立口

読み:ほうだてぐち 茶道口に用いられる形式で、開口部に「方立」を立て、鴨居と敷居によって構成されます。 水屋側には片引襖を設け、襖は縁のない太鼓張りとし、引手には「切引手」が用いられます。 ※方立:円柱や柱のない壁などに建具を取り付けるために立てる縦長の角材。

火燈口(火頭口・櫛形口)

読み:かとうぐち 主に給仕口として用いられる形式で、上部を半円形にくり抜いた壁を設けた開口です。 廻縁には奉書紙を貼り、水屋側に鴨居を設けます。 襖は縁のない太鼓張りとし、引手には切引手が用いられます。

袴腰口

読み:はかまごしぐち 給仕口として用いられる形式で、火燈口と構成は似ていますが、上部を台形(袴腰形)にくり抜いている点が特徴です。 遠州流の茶室に好んで用いられることで知られています。

釣口

読み:つりぐち 茶道口に用いられる形式で、襖を天井のレールから吊り、片引きで開閉する構造です。 また、柱に蝶番を付けた形式などもあり、用途や茶室の構成に応じて異なる意匠が採用されます。

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■ 客人の出入口 ■


​躙口

読み:にじりぐち 躙口は小間の茶室において、客人の出入口として設けられた片引戸です。 伝承によれば、千家開祖/抛筌斎千宗易利休(1522-1591)が、漁夫が小さな戸口から身をかがめて出入りする姿に着想を得たとされています。 間口を低く狭くすることで、武士であっても帯刀したまま入室することを不可能とし、茶室内では身分の差を超え、すべての人が平等であることを象徴しています。 躙口は茶室の隅に設けられ、床の間に向けて設置されるのが一般的です。「貴人口」と併設される場合には、互いに直角の位置に配置されることが多くなっています。

貴人口

読み:きにんぐち 躙口が一般化する以前に用いられていた出入口で、身分の高い客人が立ったまま入室できる形式です。 通常は二枚の襖や障子を入れ違いにして開閉する構造となっています。 本来、貴人口とは土間などから座敷へ上がるための出入口(上口)を指す語であり、部屋続きの空間から出入りするものは、厳密には区別されます。


茶室の出入口には、亭主と客人それぞれに異なる種類と機能があり、それぞれの役割を果たすように工夫されています。

出入口の違いを理解することで、茶室の設計や茶の湯の精神をより深く学ぶことができます。











❚ 07.茶室の構成 ―仕切―

茶室における仕切は、単に空間を分割する役割だけでなく、亭主と客人の距離感の調整、空間の演出、茶席の格式を示す重要な要素の一つです。

壁や建具の配置・形状は綿密に計算され、静寂で奥行きのある茶の湯の世界観を形づくります。



以下では茶室に用いられる代表的な仕切壁の種類について解説します。


読み:ふすま 襖は、部屋を仕切るための移動式の建具で、書院造の広間や、客畳と水屋との境などに用いられます。 開閉によって空間の広がりや閉鎖感を自在に調整できるため、茶席の雰囲気や進行に応じた演出が可能です。また、襖の紙質や縁、意匠には格があり、格式の高い茶席では、控えめながらも品格を備えた襖絵が施されることもあります。

障子

読み:しょうじ 障子は、木組みに和紙を張った建具で、自然光をやわらかく室内に取り入れる役割を果たします。 茶室では「雪見障子」や「腰張障子」などが用いられ、外の景色を切り取るように見せることで、季節感をさりげなく演出します。 外界とのつながりを感じさせながらも、視線を適度に遮ることで、落ち着きと静寂を保つための仕切です。

壁 (塗壁・下地窓)

読み:かべ 茶室の壁は、主に土壁で仕上げられ、聚楽壁や漆喰などの自然素材が用いられます。 また壁面に設けられる「下地窓」は、採光や通風を目的としつつ、光と影のコントラストを生み出し、茶室独特の陰影美を演出します。 壁の色合いや質感は、空間全体の印象を大きく左右するため、茶室の趣を決定づける重要な要素となります。

袖壁

読み:そでかべ 袖壁は、出入口や床の間の脇に設けられる部分的な壁で、空間の区切りと装飾的要素を兼ね備えた仕切です。 特に躙口の脇に設けられることが多く、客の出入りの際に視線をやわらかく遮り、奥行きと静けさを生み出します。 また、茶席における動線を整理し、空間の秩序と美しさを保つ役割も果たしています。

道安囲い

読み:どうあんかこい 道安囲いは、千道安(1546-1607)が考案したと伝えられる仕切の形式です。 細い竹を縦に並べて設え、完全に視線を遮るのではなく、適度な透け感を持たせる点に特徴があります。 空間に軽やかさと奥行きを与え、閉鎖的になりすぎない静寂を生み出す意匠として、格式ある茶室にも用いられています。

​連子

読み:れんじ 連子とは、木や竹を細く割った部材を一定の間隔で並べた格子状の仕切で、窓や開口部に用いられます。 通風を確保しながら視線をやわらかく遮り、外部との程よい距離感を保つ役割を果たします。 連子の間隔や材質によって光の入り方が変化し、茶室ごとに異なる趣や表情が生まれるのも特徴です。


茶室における仕切は、単なる間仕切りではなく、空間全体の美意識や機能性を高める要素として設計されています。

仕切りの工夫によって、茶室の静寂と奥行きが生まれ、亭主のもてなしの心がより際立つ空間が完成します。











❚ 08.茶室の構成 ―屋根―

茶室の屋根は、単なる建築構造の一部ではなく、茶室の趣や「わび・さび」の美意識を表現する重要な要素です。屋根の形状や材料の選定は、茶室全体の調和を考慮して設計され、亭主の美意識やもてなしの心が反映されています。



以下では茶室に用いられる代表的な屋根の種類とその特徴について解説します。


茅葺

読み:かやぶき 茅葺とは、茅や葦などの草を厚く重ねて葺いた屋根で、茶室や古民家に見られる伝統的な形式です。 厚みのある構造により、保温性・断熱性に優れ、外気の影響を受けにくいため、夏は涼しく冬は暖かい空間を生み出します。また、年月を経るごとに屋根の色合いが変化し、周囲の自然と調和した景観を形づくる点も大きな特徴です。素朴で力強い佇まいは、草庵茶室の侘びた趣を象徴する屋根形式といえます。

板葺

読み:いたぶき 板葺とは、杉や檜などの木の板を重ねて葺いた屋根で、茶室や数寄屋建築に広く用いられてきました。 簡素で素朴な印象を持ち、草庵茶室の「わび・さび」の精神を体現する屋根として適しています。中でも柿葺は代表的な板葺の形式で、薄く削った木の板を幾重にも重ねることで軽量化され、落ち着いた佇まいと繊細な表情を屋根にもたらします。

瓦葺

読み:かわらぶき 瓦葺とは、粘土を焼成した瓦を敷き並べた屋根形式で、高い耐久性と防火性を備えています。 書院造の影響を受けた広間の茶室では、格式を重んじる意図から瓦葺が採用されることが多く、安定感のある堂々とした外観を特徴とします。 軒の反りや瓦の配置によって屋根の印象は大きく変わり、茶室全体の品格や構えを左右する重要な要素となります。

柿葺

読み:こけらぶき 柿葺は、薄い木の板(柿板)を何重にも重ねて葺く板葺の一種です。 木材本来の風合いを生かしつつ、屋根全体に柔らかで繊細な質感を与えるため、草庵茶室にも多く用いられます。 軽量でありながら耐候性に優れ、適切な手入れを行うことで長く用いることができる屋根材としても知られています。

銅板葺

読み:どうばんぶき 銅板葺は、金属である銅板を屋根材として用いる形式で、主に近代以降の数寄屋建築や茶室に取り入れられてきました。 軽量かつ耐久性に優れ、経年とともに美しい緑青を帯びる点が特徴です。 伝統的な屋根材と異なり、防火性や耐久性が高いため、現代の茶室や都市部の茶室において採用される機会が増えています。


茶室の屋根は、外観の美しさだけでなく、断熱性・耐久性・環境との調和といった機能面も重視されています。



周囲の自然や建物との関係性を考慮しながら設えられた屋根は、亭主の美意識と茶の湯の精神を静かに映し出します。それぞれの屋根が持つ特性を理解することで、茶室という空間の奥深い魅力を、より深く味わうことができるでしょう。











❚ 09.茶室の構成 ―中柱―

茶室の構造において、中柱~なかばしら~は単なる建築的な支柱ではなく、空間の美意識や格式を決定づける重要な要素です。とくに草庵茶室においては、その存在感が際立ち、亭主と客人の関係性や茶の湯の精神性を象徴する役割も担っています。

中柱とは、一般に茶室の床の間と点前座の境に立てられる柱を指します。

この柱は、建築構造上の支えとして機能するだけでなく、空間を引き締め、茶室全体の趣を形づくる象徴的な存在として重要な意味を持っています。


■ 役割 ■

中柱には、主に以下のような役割があります。


空間の区切り

茶室の内部において、床の間と点前座を視覚的に分けることで、床の間をより独立した、精神性の高い空間として際立たせます。これにより、掛物や花が持つ意味や趣向が一層強調されます。

構造的な支え

小規模な空間である茶室において、中柱は天井や躯体を支え、全体の安定性を保つ重要な支柱として機能します。実用性と意匠性が一体となった建築要素であり、必要性から生まれた構造が美へと昇華されたものといえます。

美的要素

中柱は、その素材や形状、加工の仕方によって茶室の印象を大きく左右します。侘び・寂びの精神を体現するため、人工的な加工を抑え、自然の風合いを生かした材が用いられることが多いのが特徴です。





■ 材質 ■

中柱に用いられる材質は茶室の趣に合わせて以下のように選ばれます。


草庵茶室では、風情を感じさせる竹の中柱が好まれることが多い。

古くから縁起が良いとされ、茶室に格調を与える木材として使用される。

杉・松

落ち着いた質感と堅牢性を兼ね備え、一般的な茶室にも多く用いられる。

自然木

樹皮をそのまま残し、「ありのままの自然」を表現するために使われることもある。





■ 形状 ■

中柱の形状には以下のような種類があります。


​直柱

読み:ちょくちゅう まっすぐな柱で、整然とした印象を与え、格式ある茶室に多く用いられます。

曲がり柱

読み:まがりばしら 自然の曲がりをそのまま生かした曲がり柱は、侘びの美を象徴し、草庵茶室に多く用いられます。

面皮柱

読み:めんかわばしら 樹皮の一部を残した柱で、自然味あふれる素朴な表情が茶室にやわらかな趣を添えます。


茶室の中柱は、単なる構造材ではなく、空間を象徴する重要な要素です。

床の間と点前座を隔てることで、亭主と客人の関係性を視覚的に示し、茶の湯におけるもてなしの構図を明確にします。



また、自然の風合いを活かした材や形状は、侘び茶の精神に基づく「ありのままの美」を体現し、光や視線の流れを調整することで、空間全体の調和を整えます。



このように中柱は、構造を支えると同時に茶室の美意識を高め、亭主と客人の心の交流を静かに支える、象徴的な存在なのです。











❚ 10.茶室の構成 ―仕付棚―

茶室に設えられる仕付棚~しつけだな~とは、点前に必要な茶道具を所定の位置に納め、亭主が円滑に点前を行うために設けられた棚を指します。

単なる収納家具ではなく、亭主の所作が無駄なく美しく見えるよう配慮された、茶の湯特有の機能的な設備です。



茶の湯においては、亭主の動線や道具の扱いがそのまま点前の美しさにつながります。仕付棚は、使用頻度や動作の流れを考慮して道具を配置できるよう設計されており、点前座からの距離や高さ、開閉のしやすさなどに至るまで綿密に工夫されています。



仕付棚には多くの形式があり、茶室の広さや用途、点前の種類、さらには亭主の身体条件などに応じて使い分けられてきました。


以下に、代表的な仕付棚をご紹介します。



洞庫

読み:どうこ 洞庫は、道具畳の勝手付に仕付けられる押入式の仕付棚で、亭主が点前座から直接使用できるように考案されたものです。 元来は立居が不自由な者のために設計されたとされ、洞庫を用いる点前には特有の作法が定められています。 その起源については、道幸(生没年不詳)という人物が創意したと伝えられ、「道幸」「道古」「堂庫」「道籠」など、さまざまな表記が用いられてきました。 一般的な洞庫は、高さ二尺三寸(約七十センチ)、横二尺二寸(約六十七センチ)ほどで、杉板の引違戸を備え、内部には一段の棚板と柄杓釘が設けられています。 また、置き運びが可能な「置洞庫」や、水を扱えるよう工夫された「水屋洞庫」などの派生形も存在します。

釣箱棚

読み:つりばこだな 釣箱棚は、天井や梁、柱などから吊り下げる形式の仕付棚です。床面から離して設置することで、茶室内を広く見せる効果があり、限られた空間を有効に活かす工夫として用いられてきました。 道具の出し入れがしやすい高さや位置に設けられ、点前の流れを妨げないよう配慮されています。軽快で簡素な印象を持ち、草庵風の茶室とも相性の良い棚といえます。

蛤棚

読み:はまぐりだな 蛤棚は、蛤の貝殻の形を意匠として取り入れた仕付棚で、その柔らかな曲線が特徴です。 主に茶碗や水指などを置くために用いられ、実用性とともに、茶席にやわらかな趣を添える役割を果たします。 装飾性を持ちながらも過度に主張することはなく、茶室全体の調和を重んじる茶の湯の美意識を体現した棚といえます。

大釣棚

読み:おおつりだな 大釣棚は、釣棚の一種で、比較的大型のものを指します。 主に広間の茶室や、一定の格式を持つ茶席で使用され、収納機能とともに、空間構成の一要素として重要な役割を担います。 存在感のある棚でありながら、点前の妨げとならないよう位置や高さが工夫され、茶席全体の美観を整える要素として用いられています。


仕付棚は、茶室における道具の収納や取り扱いを効率的にするだけでなく、茶室内の美観や機能性を高める重要な要素です。



茶室における仕付棚の役割を理解することで、茶の湯の空間設計に対する深い知識を得ることができるでしょう。











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