2-5|居士号|02.利休の生涯|千宗易利休|抛筌斎
- ewatanabe1952

- 2023年6月14日
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全10回 抛筌斎 千宗易 利休

利休の生涯
― 居士号 ―
❚ 居士号「利休」の由来
一般的に広く知られる「千利休*」の名は――利休居士――という居士号**に由来します。
これは天正十三年(1585年)、豊臣秀吉*が関白**に就任した際に催された「禁中茶会**」において、町人の身分では参仕できないために百六代天皇/正親町天皇*から勅謚**として賜ったものとされています。
しかしこの由来には後世の説明に基づく曖昧さが残り、さまざまな史料を検証すると時代的に合わない点が多く見受けられます。
❚ 異説の存在
慶長四年(1599)、利休の子である千少庵宗淳*が大徳寺百二十二世/仙嶽宗洞*に「利休」号の解議を求めた記録では
❝
「先皇正親町院、忝(かたじけな)くも利休居士の号を賜う」
❞
との返答があり、これが現在の通説とされています。
一方で慶長十年(1605年)、利休の長男である千道安*が大徳寺百十一世/春屋宗園*に同様の解議を求めたところ
❝
「「利休」号は「宗易禅人の雅称」であり、先師である大徳寺九十世/大林宗套*が授けた」
❞
とされ、以下の偈頌**を賦して授けたと伝えています。
❝
『参得宗門老古錐/平生受用截流機/全無伎倆白頭日/飽対青山呼枕児』
訳)……… 宗門に参得せる老古錐/平生受用す、截流**せつるの機/全く伎倆無し、白頭**の日/全く伎倆(技量)無し、白頭の日/青山に対するに飽あいて枕児**を呼ぶ
❞
この遺偈**の意味は――悟りをえた者もなお悟りを求める境地――を示し、千利休が禅と茶の湯を融合させた思想を象徴するものとされる。
❚ 矛盾
ところがこの説によると「利休」号は大徳寺九十世/大林宗套より授けられたことになるが、大徳寺九十世/大林宗套は「禁中茶会」の十七年前の永禄十一年(1568年)に没していることから、「禁中茶会」が開催された天正十三年(1585年)とは十七年の隔たりがある。
このことから、従来の通説と整合しない点が生じる。
仮に大徳寺九十世/大林宗套が「利休」の号を授けたとすれば幼名「与四郎」と称した天文四年(1535年)から天文十三年(1544年)以前にはすでに「宗易**」と号し、さらにその時点で「利休」の名も授かっていた可能性がある。
また「禁中茶会」二年前の天正十一年(1583年)、大徳寺百十七世/古渓宗陳*によって描かれた「肖像画 (正木美術館**蔵)」に――利休宗易禅人――の名が記されており、これは「利休」の名が「禁中茶会」以前にすでに確立していたことを示唆する。
ただし、当時の利休は大徳寺百十七世/古渓宗陳と深い交流を持っていたため「利休」の号を大徳寺九十世/大林宗套が授けたという説には不自然な点が残る。
さらに『利休書状**』には天正十三年(1585年)以前に「利休」という署名がみられないことから、天正十三年(1585年)の「居士号」勅諡の際に大徳寺百十七世/古渓宗陳が急遽撰し授けたものではないかとする見方もある。
いずれにせよ「利休」の名は娩年の頃の名であり、生涯のほとんどは「宗易」と名乗っている。
❚ 君の名は
「利休」の名の起源にはいくつかの説があり、現在も決定的とはいえません。
「宗易」として活動していた時間が圧倒的に長く、「利休」の名は晩年に限定的に使われた宗教的尊号**だったとも考えられます。
いずれの説にせよ、その名は後世にわび茶**の象徴として定着し、「千利休」として歴史に刻まれることとなりました。
❚ 次回は・・・
次回の「2-6|利休の罪 (壱)|02.利休の生涯」では、利休に下されたとされる「罪」とは何であったのか、それがどのような経緯で形成されたのか、史料をもとに多角的に検証していきます。
登場人物
千利休|せん・りきゅう
……… 天下三宗匠|千家開祖|抛筌斎|千宗易|1522年―1591年
豊臣秀吉|とよとみ・ひでよし
……… 天下人|関白|太閤|1536年―1598年
正親町天皇|
……… (1517–1593):第106代天皇。秀吉の関白就任に際し、利休に居士号を下賜したとされる。
千少庵
……… (1546–1614):利休の女婿・高弟。晩年に千家を再興。
仙嶽宗洞|
……… 。
千道安|
……… (1546–1607):利休の長男。父の遺名を継承するも、一時不遇をかこつ。
春屋宗園|
………
大林宗套|
……… (1480–1568):大徳寺90世。利休の参禅の師であり、「利休」の名を授けたとの説もある。
古渓宗陳|
……… (1532–1597):大徳寺117世。利休の最晩年の師であり、肖像画や居士号の伝承に関与。
用語解説
居士号|こじごう
……… 仏門に帰依した在家信者に与えられる尊称。
関白|
………
禁中茶会
………
勅諡|ちょくし
……… 天皇から与えられる名誉称号。
偈頌|げじゅ
……… 禅宗で用いられる漢詩形式の詩句、師が弟子に送ることもある。
老古錐|
………
截流|
………
白頭|
………
枕児|
………
宗易|
………
正木美術館|
………
利休書状|
………
尊号|
………
わび茶|
………

